こころの病気とくすり
心の治療薬(向精神薬)の種類
こころの病気の治療に使われる薬の種類についてご紹介します。
心の病気の治療薬のことを、ぜんぶまとめて向精神薬と呼びます。「精神治療に向いているお薬」ということでしょうか。
抗精神病薬
精神病(=統合失調症)の治療薬です。幻覚・妄想を改善します。情動を安定させたり、睡眠目的で使われることもあります。
抗うつ薬
うつ病の治療薬です。ふさぎ込んだ気分や意欲を回復させます。
抗不安薬(=精神安定剤)
不安に対する治療薬です。過度の不安・緊張を和らげます。
気分安定薬
双極性障害(躁うつ病)の治療薬です。気分の異常(躁気分・うつ気分)の改善・予防をします。
睡眠薬
不眠の治療薬です。様々な睡眠薬がありますが、最近は自然な眠気を強め、依存性少ない睡眠薬の開発が進んでいます。
これらの薬を総称して『向精神薬(精神に作用する薬という意味)』と言います。
薬を使ったほうが良い方とは?
患者さんの状態によって、
- 薬を使わなければならない方
- 薬を使ったほうが良い方
- 薬を使わなくても大丈夫な方
の3つにわけることができます。
その違いは、脳のバランスの乱れがどの程度あるかが大きなポイントになります。
「心」の病気が「脳」の病気としての要素が強い場合は、その機能を整えるお薬の役割が重要となるのです。
お薬を使わなければならないケース
たとえば、統合失調症や双極性障害Ⅰ型といったように、明らかに脳の機能異常が病状を不安定にする場合は、お薬は必要不可欠になります。
症状が一時落ち着いても、ストレスが重なると機能の異常が抑えられず、症状が再燃・再発してしまいます。
お薬を使うべきかの判断ポイント
うつ病を例にあげれば、ストレスが蓄積して脳の異常をきたした症状と、ストレスの反応で起きている症状には違いがあります。
前者としては、思考抑制(頭が働かなくて考えられなくなる症状)や過度な自責感(過剰に悲観的になって自分を責めること)などがあげられます。
このような場合は薬を使ったほうが良い症状です。
その一方で後者は、ストレスの反応で起きている症状ですから、環境を整えるだけでも効果が期待できます。
お薬を使うと心身が楽になるので、現実的な折り合いが早くつくことが多いです。
このような場合は必ずしもお薬を使う必要はないのですが、状況によってはお薬を使ったほうが良いこともあります。
このように、お薬の必要性は患者さんによっても異なります。
私たち医師は多くの患者さんの治療経験の中で、ご助言させていただきます。
薬物療法と副作用について
薬の副作用を気にされる方は多くいらっしゃいます。
副作用が身体に危険が少なく何とかなる程度の症状(口の渇き・胃腸症状など)の場合は、対策をとりながら薬の服用を続けることが優先されます。
しかし、明らかに異常があった場合や副作用が苦しい場合には、服用を中止します。
また、こころの病気の薬には昔から
- 薬に依存性があってやめられなくなる
- 一度飲み始めたら一生飲み続けないといけないらしい
- 服用すると認知症になる、性格が変わる
といった都市伝説のようなウワサがありますが、これらはすべて正しくありません。
お薬はやめられない?
例えば、薬は出口を意識しながら正しい使い方をすれば、やめられないお薬ではないといえます。
また薬は一生飲み続ける必要はなく、症状が改善して安定したら減薬中止が可能となることがほとんどです。
ただ、表面的な症状はなくても病気そのものが治っていない場合は飲み続けなくてはならないので、“一生飲み続ける”というイメージにつながったのかもしれません。
また症状が治っていても、急に薬をやめると離脱症状(イライラ感・不眠・頭痛など)が現れるタイプの薬があり、徐々に薬の量を減らしながらやめる必要があります。
そうしたことも“なかなかやめられない”イメージにつながったのかと思います。
お薬で認知症になる?性格が変わる?
お薬によって認知症になりやすくなるかもしれないとは、かつては考えられているお薬がありました。
ですが今では、あったとしてもごくわずかと考えられており、むしろ何気なく飲まれているお酒の方が悪影響が大きいです。
またお薬によって性格が変わるということはなく、もともとの症状がコントロールできないために性格が変わって見えることがあります。
お薬によって救われることも多い
こころの病気の薬を心配されるお気持ちは当然かと思います。ですが副作用やウワサを必要以上に恐れず、適切に服用することで病気が治療できることが少なくありません。
まずはお薬による治療を検討することが、これまでの年月で蓄積された治療選択肢になります。
当院ではご本人のお気持ちを尊重しながら、納得していただいたうえでお薬の治療を開始していきます。
薬について心配なことがあれば、遠慮せずにご相談ください。